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社労士の独立ガイド|勤務社労士・会社員から開業する流れ、タイミング、独立後の収入と失敗しないための準備

勤務社労士として働きながら、あるいは会社員として社労士資格を取ってから、「いつか独立したい」と考える方は少なくありません。一方で、「独立して失敗したらどうしよう」という不安から、なかなか踏み出せない方も多いはずです。この記事では、開業の手続きそのものではなく、勤務から独立へ移るまでの考え方と準備に絞って、全国社会保険労務士会連合会の実態調査の数字で整理します。

この記事の要点

  • 勤務等の社労士のうち、5.9%が1〜3年以内に開業予定、32.9%が「時期は未定だが将来は開業したい」。約4割に独立の意向がある。
  • 開業した人の直前の職業は、会社員が46.5%、社労士事務所・法人の従業員が21.0%。事務所での勤務経験がないまま独立する人のほうが多い。
  • 開業5年未満の売上の中央値は135万円。勤務していたときの収入を、独立直後に上回るのはかんたんではない。
  • 開業しない理由のトップは「顧客確保が難しいと思うから」(42.2%)。独立の成否を分けるのも、実務より顧客を得る力。
  • 独立は「辞めてから考える」より、在職中に「誰に・何を・いくらで・どう知ってもらうか」を決めてから動くほうが失敗しにくい。

社労士の「独立」とは:勤務等から開業へ

社労士の登録には、大きく分けて「開業」「社労士法人の社員」「勤務等」の区分があります。会社の人事部や社労士事務所に勤めながら登録している人は「勤務等」、自分で事務所を構えて仕事を受ける人は「開業」です。この記事でいう「独立」は、勤務等の立場や会社員から、開業の立場に移ることを指します。

社会保険労務士法では、他人の求めに応じて報酬を得て社労士の仕事を業として行おうとする人は、事務所を定めて、あらかじめその名称や所在地などの登録を受けなければならないとされています(第14条の2第2項)。勤務社労士は、勤務先の名称や所在地などを登録します(同第3項)。つまり、独立するときは、登録の中身を「勤務先」から「自分の事務所」へ切りかえることになります。

開業・勤務の人数の推移

連合会の事業報告によると、会員の内訳は次のとおりです。

区分2025年3月31日2026年3月31日増減2026年の割合
開業24,819人25,136人+317人53.3%
法人の社員4,127人4,362人+235人9.2%
勤務等17,291人17,667人+376人37.5%
合計46,237人47,165人+928人100%

※割合は人数から計算した値です。

開業と法人の社員を合わせると6割を超えます。社労士にとって、独立は特別な選択ではありません。ただ、勤務等の人も1年で376人増えています。「資格を取ったら独立するもの」というわけではなく、勤務のまま資格を活かす人も着実に増えている、というのが実際の姿です。

独立を考えている勤務社労士はどれくらいいるか

2024年度の実態調査では、勤務等の社労士10,157人に、今後開業する意向があるかを聞いています。

開業の意向割合
近い将来(1〜3年以内)に開業予定5.9%
時期は決まっていないが将来的には開業したい32.9%
開業する意向はない61.0%

約4割の勤務社労士に、独立の意向があることになります。登録して5年未満の人に限ると、「1〜3年以内に開業予定」が8.8%、「将来的には開業したい」が42.4%で、合わせて半数を超えます。登録年数が長くなるほど、「将来的には開業したい」の割合は下がっていきます。

「いつか独立したい」と思いながら、時期を決めないまま年数がたつ人も多いと考えられます。迷っているなら、独立するかどうかより先に、「いつまでに何がそろったら独立するか」の条件を決めておくと、判断がしやすくなります。

開業を考えていない人の理由

「開業する意向はない」と答えた人(6,194人)に理由を聞いた結果は次のとおりです(複数回答)。

理由割合
顧客確保が難しいと思うから42.2%
現在の状況に満足しているから40.1%
自分の能力不足を感じているから31.9%
収入が安定しないから26.7%
経営者になると責任が大きくなるから16.8%
資格取得が目的だったから8.8%

いちばん多いのは「顧客確保が難しいと思うから」です。独立をためらう理由の多くは、実務の知識よりも、「仕事を取ってこられるか」「収入が安定するか」という、事業としての不安です。裏を返せば、この2つに見通しが立てば、独立の判断はしやすくなります。

独立した人は、その前に何をしていたか

開業している社労士(開業+法人の社員、15,251人)に、開業の直前まで就いていた主な職業を聞いた結果は次のとおりです。

開業直前の職業割合
会社員(社労士事務所・社労士法人の従業員を除く)46.5%
社労士事務所・社労士法人の従業員21.0%
経営者(個人事業主を含む)6.8%
パート・アルバイト・派遣社員6.4%
会社役員4.5%
公務員4.2%
無職3.1%

独立した人の半数近くは、社労士事務所で働いたことのない会社員です。事務所での勤務経験がないことは、独立をあきらめる理由にはなりません。

事務所に勤めてから独立した人の勤務年数

開業前に社労士事務所・社労士法人で働いていた人(3,209人)の勤務年数は、次のとおりです。

勤務年数割合
3年未満21.0%
3〜4年18.4%
5〜9年27.7%
10〜14年14.6%
15〜19年7.7%
20〜24年5.2%
25年以上4.5%

平均は8.2年です。5年未満で独立した人が39.4%いる一方、10年以上勤めてから独立した人も3割ほどいます。「何年勤めたら独立してよい」という決まった答えはなく、人によって大きく違うことがわかります。

事務所勤務の経験がある人は、手続きの流れや顧問先とのやりとりを知っている強みがあります。会社員出身の人は、人事・労務の現場や、自分の業界の事情を知っている強みがあります。どちらも、その強みを「誰に・何を」に結びつけられるかどうかが、独立後の差になります。

独立後の収入の実態

開業年数ごとの売上

実態調査の、開業年数ごとの事務所の売上は次のとおりです。

開業年数売上の中央値売上の平均
5年未満135万円612.7万円
5〜9年500万円1,427.8万円
10〜14年660万円1,889.5万円
15〜19年800万円1,830.9万円

開業5年未満では、「収入なし」が17.1%、「500万円未満」が49.4%です。平均が中央値より大きく上にあるのは、一部の売上の大きな事務所が平均を引き上げているためです。独立後の見通しは、平均ではなく中央値で考えるほうが現実に近くなります。

勤務のときの年収と比べると

独立を考えるときに気になるのは、「今の収入より下がるかどうか」でしょう。同じ調査では、働き方ごとの収入は次のとおりです。

働き方調査で聞いている収入数字
勤務等年収300万〜600万円未満が38.0%で最多。600万円以上は合わせて41.5%
個人で開業個人事業の所得中央値200万円
社労士法人の社員役員報酬中央値600万円

個人で開業している社労士の所得の中央値は200万円です。これは開業したばかりの人や、ほかの仕事と兼ねている人も含んだ数字ですが、独立してすぐに勤務のときの年収を上回るのは、かんたんではないことがわかります。なお、売上は経費を引く前、所得は引いた後の数字なので、生活費は所得で考えます。くわしくは社労士の年収の実態をご覧ください。

一方で、売上が上位25%に入る事務所を見ると、30歳前後で開業した場合、開業5年未満で売上600万円(所長1人・顧問先12.5社)、開業5〜9年で2,800万円(4人・顧問先50社)まで伸びています。伸びている事務所も、独立直後は1人・顧問先10社前後から始まっています。

独立のタイミングの考え方

「早いほうが伸びやすい」傾向はある

実態調査の報告書は、開業した年代と開業年数ごとの売上を比べて、基本的には開業する年代が若いほど、開業年数を重ねるにつれて売上や顧問先の数が伸びやすい傾向にあるように見受けられる、とまとめています。ただし報告書自身も、年代によって開業の理由が違うことを考慮する必要があると注意しています。

若いうちに独立したほうが、事務所を育てる時間を長くとれるのは確かです。けれど、年齢だけで決める必要はありません。大事なのは「いつ辞めるか」より、「辞める時点で何がそろっているか」です。

在職中に準備している人は多い

勤務等の社労士で副業・兼業をしている人は全体で9.9%ですが、1〜3年以内に開業予定の人では19.0%と、約2倍になっています。独立を決めている人ほど、勤めながら何らかの準備を始めていることがうかがえます。

勤めながら準備する場合は、まず勤務先の就業規則で、副業や兼業がどう定められているかを確認しましょう。社労士として報酬を得て仕事を受けるには開業の登録が必要なので、在職中は「仕事を受ける」準備よりも、次のような「独立後すぐに動ける」準備に時間を使うのが現実的です。

在職中にできること内容
事業の中身を決める誰の、どんな困りごとを助けるか。何を商品にするか
料金表をつくる顧問報酬とスポットの料金。開業時の料金はあとから上げにくい
生活費の見通しを立てる売上が立つまでの期間を、貯えや家族の収入でどう支えるか
入口の準備をするホームページや記事の原稿、紹介をお願いできる人の整理
実務の不安を洗い出す経験の少ない手続きや相談の分野を、講習や書籍で補う

顧問先ゼロから立ち上げる前提で考える

勤めていた事務所から顧問先を引き継いで独立できる人ばかりではありません。会社員から独立する人の多くは、顧問先ゼロからのスタートです。開業5年未満の売上の中央値135万円は、多くの人がゼロから少しずつ顧問先を増やしている姿だと考えられます。

ゼロから立ち上げるなら、独立前に次の数字を一度書き出してみてください。

  1. 独立後、毎月いくらあれば生活できるか(所得の目標)
  2. そのために必要な売上はいくらか(経費を足した額)
  3. その売上は、顧問料いくらで、何社と契約すれば届くか
  4. その会社と、どうやって出会うか

実態調査では、顧問先が10〜19社の事務所の売上の中央値は600万円です。フツーの社労士脱却研究所では、独立1年目は中央値の550万円(顧問先10社前後)を最初の目標にしています。そこから逆算すると、1か月に1社ずつ顧問先を増やすくらいの入口が必要だとわかります。

独立前に決めておく4つのこと

手続きよりも先に、次の4つを決めておくと、独立後の動き方が変わります。

  1. 誰に:どんな業種・規模の会社の、どんな困りごとを助ける事務所か。会社員出身なら、自分がいた業界は大きな手がかりになります。
  2. 何を:手続や給与計算だけでなく、採用・定着・評価・職場づくりなど、労務と人の面で経営者に伴走する支援を、どう商品にするか。
  3. いくらで:顧問報酬とスポットの仕事の料金。考え方は社労士の顧問報酬の決め方にまとめています。
  4. どう知ってもらうか:紹介以外に、新しい会社が事務所を知る入口をどうつくるか。

この4つが言葉になっていれば、独立の時期も決めやすくなります。逆に、ここがあいまいなまま勤め先を辞めると、独立後に「何から手をつければいいのか」で時間を使ってしまいます。

独立で失敗しやすいパターンと対策

実態調査では、開業5年未満の72.5%が「顧客獲得の難しさ」に不安やストレスを感じていると答えています。また、開業社労士の事務所の50.8%は「特段情報発信はしていない」、事務所の56.4%は所長1人だけです。これらの数字と、支援の現場でよく見かけることをもとに、失敗しやすいパターンを整理します。

よくあるパターン起きやすいこと対策
勢いで辞めてから考える準備期間に収入がなく、焦って安い仕事を受けてしまう在職中に4つのこと(誰に・何を・いくらで・どう知ってもらうか)を決めておく
「何でもやります」で始める誰に向けた事務所か伝わらず、紹介も検索もされにくい業種や困りごとを絞り、一言で説明できるようにする
顧問料を安くしすぎる顧問先が増えても忙しいだけで、売上が伸びない。あとから上げにくい開業前に料金表を決め、安さで選ばれる形を避ける
紹介を待つだけ知り合いへのあいさつが一巡すると、問い合わせが止まるホームページ、記事、セミナーなど、紹介以外の入口を用意する
生活費の見通しがない売上が立つ前に貯えが尽き、勤めに戻らざるを得なくなる売上の中央値を前提に、1〜2年分の生活費の支え方を決めておく
手続だけで毎日が埋まる1人で回せる量の上限に達し、商品づくりや発信の時間がなくなる早めに仕組み化や外注、スタッフの採用を考える

どれも、実務の力とは別の話です。独立で失敗しやすいのは、実務ができないからではなく、事業として準備しないまま始めてしまうからです。開業後の現実は、社労士の開業は厳しい?データで見る開業1〜5年目の現実でくわしく紹介しています。

失敗しても戻れる道を用意しておく

独立に踏み切れない人の多くは、「失敗したら終わり」と感じています。けれど、勤務等の社労士の年収は「300万〜600万円未満」が最も多く、勤め先の選択肢も社労士事務所から一般の会社まで幅があります。うまくいかなかったときに勤めに戻る道を最初から考えておくと、気持ちの面でも判断がしやすくなります。そのうえで、「いつまでに顧問先が何社にならなければ方針を見直す」という区切りを、独立前に決めておくとよいでしょう。

独立の手続きの流れ(概要)

独立の手続きは、今どの立場にいるかで少し違います。

今の立場主な手続き
勤務等で登録している事務所を定めて、登録の内容を勤務から開業に変える。社労士法では、登録事項に変更が生じたときは遅滞なく変更の登録を申請することになっている
まだ登録していない(会社員など)開業として新しく登録する。2年以上の実務経験か、連合会の事務指定講習の修了が必要

どちらの場合も、窓口は所属する(または入会する)都道府県の社労士会です。必要な書類や日数は社労士会によって違うので、独立したい日から逆算して、早めに問い合わせるのが確実です。2025年7月15日からは、マイナポータルを使った登録のオンライン申請もできるようになっています。

登録のあとは、税務署への開業届、賠償責任保険、電子申請の準備などが続きます。登録費用や社労士会の入会金・年会費は社労士の開業ガイド【2026年版】、手続きの順番とチェックリストは社労士の開業準備の流れにまとめています。

よくある質問

社労士事務所で働いた経験がなくても独立できますか?

できます。実態調査では、開業した人の直前の職業は「会社員(社労士事務所・社労士法人の従業員を除く)」が46.5%で、「社労士事務所・社労士法人の従業員」の21.0%を大きく上回っています。登録の条件となる2年以上の実務経験がない場合は、連合会の事務指定講習を修了すれば登録できます。経験の少ない分野は、独立前に講習や書籍で補っておきましょう。

何年くらい勤めてから独立するのがよいですか?

決まった答えはありません。開業前に社労士事務所で働いていた人の勤務年数は、3年未満が21.0%、5〜9年が27.7%、10年以上が3割ほどと幅があり、平均は8.2年です。勤めた年数よりも、「誰に・何を・いくらで・どう知ってもらうか」と生活費の見通しがそろっているかで判断するのがおすすめです。

社労士で独立すると、収入はどれくらいになりますか?

開業5年未満の事務所の売上の中央値は135万円、5〜9年で500万円です。個人で開業している社労士の所得の中央値は200万円で、勤務等の社労士の年収(300万〜600万円未満が最多)と比べると、独立直後は下がる人が多いと考えておいたほうが安全です。一方で、売上が上位25%の事務所は、30歳前後で開業した場合、開業5年未満で売上600万円、5〜9年で2,800万円まで伸びています。

独立で失敗しないために、いちばん大事なことは何ですか?

顧客を得る入口を、独立前に用意しておくことです。開業を考えていない勤務社労士の理由のトップは「顧客確保が難しいと思うから」(42.2%)で、開業5年未満の72.5%も「顧客獲得の難しさ」に不安を感じています。在職中に事業の中身と料金を決め、紹介以外の入口を準備してから独立すると、立ち上がりが変わります。

出典

会員数・調査結果・法令は2026年10月23日時点で各発表元のページを確認した内容です。実態調査の調査期間は2024年4月24日〜6月9日。開業意向・開業を考えていない理由・副業・年収は勤務等の社労士(10,157人)、開業前の職業・不安やストレスは開業社労士(開業+法人の社員)15,251人、売上は個人事務所の代表と社労士法人の代表社員の回答です。会員数の割合は、事業報告の人数から計算した値です。