社労士の顧問料アップ完全ガイド|値上げの準備と伝え方、料金表の見直し、単価が上がる商品のつくり方
「顧問料を上げたい。でも、切り出したら顧問先が離れるかもしれない」。売上が伸び悩んでいる社労士事務所の所長から、いちばん多く聞く悩みのひとつです。けれど、顧問料アップは既存の顧問先に値上げをお願いすることだけではありません。この記事では、顧問料を上げる4つの道筋を、全国の社労士事務所の実態調査の数字と、そのまま使える文例つきで整理します。
この記事の要点
- 顧問料アップの道筋は4つ。①既存の顧問先の値上げ ②新規の料金表の見直し ③作業の別料金化 ④需要が伸びている仕事の商品化。
- 全国の事務所の売上を顧問先の数で割ると、1社あたり年30万〜40万円台が目安。これを大きく下回るなら、単価に伸びしろがある。
- 値上げの成否は、金額を伝える前の3〜4か月の準備でほぼ決まる。
- 5年前より需要が増えた仕事は「相談」71.5%、「規程の作成・改定」66.2%、「コンサル」57.7%。ここを商品にすると、顧問料の水準そのものが変わる。
顧問料アップには4つの道筋がある
「顧問料アップ」と聞くと、今の顧問先に値上げをお願いすることを思い浮かべがちです。けれど実際には、次の4つの道筋があります。
| 道筋 | 何をするか | 顧問先との話し合い |
|---|---|---|
| ① 既存の顧問先の値上げ | 今の顧問料を改定する | 必要(いちばん気をつかう) |
| ② 新規の料金表の見直し | これから契約する顧問先の料金を上げる | 不要(新しい料金で契約するだけ) |
| ③ 作業の別料金化 | 顧問料に含めていた作業を、別料金にする | 必要(範囲の確認) |
| ④ 需要が伸びている仕事の商品化 | 相談・規程・制度づくりなどを、顧問契約の上位プランにする | 提案として行う |
いきなり①から始める必要はありません。②と④は、今の顧問先に値上げを切り出さなくても単価を上げられる道筋です。まず全体を見て、自分の事務所はどこから手をつけるかを決めましょう。
まず現在地を確かめる:1社あたりの顧問料はいくらか
全国社会保険労務士会連合会の「2024年度社会保険労務士実態調査」には、顧問先の数ごとの売上の中央値が載っています。
| 顧問先の数 | 売上の中央値 | 1社あたりの目安(年) |
|---|---|---|
| 10〜19社 | 600万円 | 約32万〜60万円 |
| 20〜29社 | 900万円 | 約31万〜45万円 |
| 30〜39社 | 1,200万円 | 約31万〜40万円 |
| 40〜49社 | 1,500万円 | 約31万〜38万円 |
| 50〜59社 | 2,000万円 | 約34万〜40万円 |
※「1社あたりの目安」は、売上の中央値を顧問先の数の上限と下限で割った参考値です。スポットの売上も含みます。調査が公表している数字ではありません。
1社あたりの年間売上は、どの区分でもおおむね30万〜40万円台に収まります。月に直すと2万5,000円〜3万円台です。自分の事務所の売上を顧問先の数で割ってみて、これを大きく下回るなら、単価に伸びしろがあります。
なお、事務所の売上のうち顧問契約による売上は平均71.9%です。顧問料の水準は、そのまま事務所の売上の水準になります。
顧問先ごとに、この5つを一覧にする
値上げや見直しの前に、顧問先ごとに次の5つを書き出しておきます。これが、この後のすべての判断の材料になります。
- 今の月額の顧問料
- 契約したときの従業員数と、今の従業員数
- 毎月の対応件数(手続・相談など)
- 顧問料に含めている作業(年度更新、算定基礎届、規程の改定など)
- 最後に顧問料を改定した年
従業員数が契約時より増えているのに、顧問料が開業時のままという顧問先は、たいていすぐに見つかります。
顧問料が上がらない3つの理由
1. 作業の量が、顧問先から見えていない
実態調査では、開業社労士の60.8%が「業務量の多さ」に不安やストレスを感じています。それだけ手を動かしていても、顧問先からは「いつもやってもらっていること」にしか見えていないことが多いのです。作業の量が見えていないと、値上げは「急に高くなった」と受け止められます。
2. 料金表が、開業したときのまま
開業時に、相場を見て控えめに決めた料金表を、そのまま使い続けている事務所は少なくありません。顧問先の従業員数が増えても料金が据え置きになっていると、仕事の量だけが増えていきます。
3. 比べられやすい仕事が中心になっている
調査では、事務所が受けている仕事の平均の割合は、手続業務が41.5%で最も大きくなっています。手続は欠かせない仕事ですが、顧問先から見ると「どこに頼んでも同じ」と思われやすく、価格で比べられがちです。比べられやすい仕事だけで顧問契約を組んでいると、顧問料は上がりにくくなります。
道筋①:既存の顧問先の顧問料を上げる
金額を伝える3〜4か月前から準備する
値上げの成否は、金額を伝える瞬間ではなく、その前の積み重ねでほぼ決まります。更新月の3〜4か月前から、毎月の報告に、対応した件数を一行添えることから始めます。
今月は、入社の手続きが3件、育児休業の手続きが1件、就業規則についてのご相談が2件ありました。
これを毎月同じ形で続けると、「この会社は最近、対応の量が増えている」という事実が、顧問先の手元に自然に残ります。この段階では、値上げを匂わせないことが大切です。準備のくわしい進め方は、noteの記事「社労士の顧問料値上げは、切り出す前に決まっている」で解説しています。
根拠は「量」と「範囲」で示す
値上げの理由は、事務所の都合(物価が上がった、人件費が上がった)よりも、顧問先に起きている変化で説明するほうが伝わります。
- 従業員数が、契約時の○人から○人に増えた
- 毎月の対応件数が、平均○件から○件に増えた
- 法改正への対応や、規程の改定が増えた
「量が増えたので、それに合わせて料金を見直したい」という説明なら、顧問先も納得しやすくなります。
伝え方:更新月に、書面で、選択肢をつけて
- 時期:契約の更新月に合わせ、改定の1〜2か月前に伝えます。
- 伝え方:まず面談やオンラインで口頭で伝え、その後に書面でお送りします。書面だけを送るのは避けましょう。
- 選択肢:「今の料金で対応範囲を絞る」という選択肢も用意しておくと、話し合いが「値上げを受けるかどうか」ではなく「どちらを選ぶか」になります。
そのまま使える「顧問料改定のお知らせ」の文例
〇〇株式会社
代表取締役 〇〇 〇〇 様
顧問料改定のお知らせ
いつも大変お世話になっております。
このたび、〇年〇月分より、顧問料を下記のとおり改定させていただきたく、ご案内申し上げます。
貴社の従業員数は、ご契約時の〇名から現在〇名となり、毎月の手続き・ご相談の件数も、平均〇件から〇件に増えております。今後も同じ品質で対応を続けるため、対応量に合わせて顧問料を見直させていただきたいと考えております。
改定前:月額〇〇円(税別)
改定後:月額〇〇円(税別)
改定月:〇年〇月分より
なお、対応範囲を見直すことで、現在の顧問料のまま継続いただく方法もございます。ご不明な点がございましたら、お気軽にお申し付けください。
時期をずらしたほうがよい場合
顧問先の業績が厳しい時期や、毎月のやりとりがほとんどない顧問先には、すぐに値上げを伝えないほうがよい場合があります。まずは毎月の報告で接点をつくるところから始めましょう。
道筋②:新規の顧問先の料金表を見直す
いちばん摩擦が少ない顧問料アップは、これから契約する顧問先の料金を上げることです。今の顧問先に何かをお願いする必要はありません。
料金表は、従業員数だけで決めるのではなく、対応範囲で段階をつけると単価が上がりやすくなります。
| プラン | 対応範囲の例 |
|---|---|
| 基本 | 社会保険・労働保険の手続き |
| 標準 | 手続き + 労務相談(回数の目安を決める) |
| 上位 | 手続き + 労務相談 + 規程の改定・人事制度づくり・定期的な面談 |
段階があると、顧問先は「価格」ではなく「どこまで任せたいか」で選ぶようになります。また、料金表をホームページに載せておくと、内容で選んでくれる会社と出会いやすくなります。
道筋③:顧問料に含めている作業を別料金にする
年度更新、算定基礎届、就業規則の改定、36協定、助成金の申請など、本来は手間のかかる作業を、顧問料に含めたまま対応している事務所は多くあります。
- 新しい顧問先からは、契約書に顧問料に含む作業と、別料金の作業をはっきり書いておきます。
- 今の顧問先は、更新のタイミングで対応範囲を確認し、次の年から別料金にする形にします。
年度更新を顧問料に含めるか分けるかの考え方は、noteの記事「社労士の年度更新、顧問料に含めるか分けるか」で解説しています。
道筋④:需要が伸びている仕事を商品にする
実態調査では、5年前と比べた顧問先からの需要の変化を、仕事ごとに聞いています。
| 仕事の種類 | 増えた | 減った |
|---|---|---|
| 労働・社会保険に関する相談 | 71.5% | 19.2% |
| 規程の作成・改定・整備 | 66.2% | 23.9% |
| 手続業務 | 59.1% | 32.0% |
| コンサル業務(企画・制度設計など) | 57.7% | 29.8% |
| 給与計算業務 | 50.1% | 36.2% |
| 助成金業務 | 42.1% | 43.6% |
相談、規程の作成・改定、コンサルは「増えた」が「減った」を大きく上回っています。一方、助成金業務は「減った」のほうがわずかに多くなっています。調査の自由回答でも、大きく増えた仕事として労務相談やコンサル、トラブル・ハラスメントへの対応がよく挙げられていました。
手続の外側にある相談やコンサル(いわゆる3号業務)は、顧問先の需要が伸びていて、価格でも比べられにくい仕事です。ここをメニューと価格を決めた「商品」にして、顧問契約の上位プランに組み込むと、顧問料の水準そのものが変わります。
- 毎月1回の経営面談(人の課題を一緒に整理する)
- 評価制度・賃金制度づくり
- 採用と定着の支援(求人票の作成など)
- ハラスメント防止の体制づくりと研修
大切なのは「何でも相談に乗ります」ではなく、何を、どこまで、いくらで提供するかを決めておくことです。形になっていれば、提案もしやすく、スタッフに任せることもできます。3号業務を商品にする進め方は社労士の3号業務の増やし方、関わり方の考え方は経営伴走支援とは?でも解説しています。
値上げの後にやること:請求の「穴」をふさぐ
せっかく顧問料を改定しても、請求のしかたに穴があると、実際の入金は増えません。よくあるのは次の3つです。
- 改定後も、前月の請求データをコピーして旧単価のまま請求している
- スポットの作業を請求し忘れている
- 未入金をそのままにしている
月に一度、改定した顧問先の請求額と入金を確かめるだけで、ほとんど防げます。くわしくはnoteの記事「顧問料が目減りする原因は、たいてい事務所の請求側にある」をご覧ください。
顧問料アップのチェックリスト
- 顧問先ごとに、月額・従業員数・対応件数・含めている作業・最後の改定年を一覧にした
- 売上を顧問先の数で割り、1社あたりの単価を確かめた
- 毎月の報告に、対応件数を一行添えている
- 新規の顧問先向けの料金表を、対応範囲で3段階にした
- 契約書に、顧問料に含む作業と別料金の作業を書いた
- 相談・規程・制度づくりなど、手続以外のメニューと価格を1つ以上決めた
- 改定後の請求額と入金を、月に一度確かめている
よくある質問
顧問料を値上げすると、解約されませんか?
解約される可能性はゼロではありません。ただ、値上げの数か月前から毎月の対応件数を伝え、従業員数や対応量の変化を根拠に説明すれば、顧問先も事情を理解しやすくなります。「今の料金で対応範囲を絞る」という選択肢を用意しておくと、解約ではなく範囲の見直しで落ち着くこともあります。
どのくらい値上げすればよいですか?
一律の割合で決めるより、従業員数や対応件数の変化に合わせて決めるほうが、顧問先に説明しやすくなります。全国の事務所の1社あたりの売上は年30万〜40万円台(月2万5,000円〜3万円台)が目安なので、これを大きく下回っている顧問先から見直すのがおすすめです。
社労士の顧問料の相場は決まっていますか?
公的に決められた相場や、全国の顧問料の金額をまとめた公的な統計は見当たりません。全国社会保険労務士会連合会の実態調査でわかるのは、事務所の売上と顧問先の数です。そこから計算すると、1社あたりの売上は年30万〜40万円台が目安になります。
新しい顧問先から料金を上げるのが不安です
料金を上げると、問い合わせの数は減ることがあります。そのかわり、内容で選んでくれる会社と契約しやすくなり、1社あたりの手間に見合った売上になります。料金表をホームページに載せ、対応範囲で段階をつけておくと、価格だけで比べられにくくなります。
まとめ
- 顧問料アップの道筋は、①既存の顧問先の値上げ、②新規の料金表の見直し、③作業の別料金化、④需要が伸びている仕事の商品化の4つです。
- 1社あたりの売上は年30万〜40万円台が目安。まず自分の事務所の単価を確かめましょう。
- 値上げは、金額を伝える3〜4か月前の準備で決まります。毎月の報告に、対応件数を一行添えることから始めましょう。
- 相談・規程・コンサルは需要が伸びています。手続の外側の仕事を商品にすると、顧問料の水準そのものが変わります。
売上全体の伸ばし方は社労士の売上アップは「顧問先数×単価」の逆算から、全国の事務所の売上の分布は社労士の売上の実態で解説しています。
出典
- 全国社会保険労務士会連合会・社会保険労務士総合研究機構「2024年度社会保険労務士実態調査」詳細版(2024年11月8日公表)。「22.年間売上(収入)金額」「26.売上内訳」「27.受託業務範囲の内訳」「30.社労士としての職業生活において感じる不安やストレス」「32.過去と比べた需要変化」
https://www.shakaihokenroumushi.jp/Portals/0/doc/nsec/souken/2024/202411_2024srchousa_shousai.pdf
調査期間は2024年4月24日〜6月9日。売上・売上内訳・業務の内訳は個人事務所の代表と社労士法人の代表社員(14,469人)、不安やストレスと需要の変化は開業社労士(開業と法人の社員、15,251人)の回答です。お知らせ文の例は一般的な書き方の例で、契約の内容に合わせて調整してください。
