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社労士の開業資金はいくら必要?初期費用・生活費の考え方と、自宅開業・融資・開業1年目の月ごとの過ごし方

社労士として開業するとき、いくらお金を用意しておけば安心でしょうか。登録料や入会金は調べればすぐにわかりますが、本当に大事なのは売上が立つまでの間、事務所と生活を何か月もたせられるかです。この記事では、公表データで確かめられる費用と開業後の売上の実態をもとに、開業資金の考え方、自宅で始めるか事務所を借りるか、資金を借りるときの選択肢、そして開業1年目を月ごとにどう過ごすかを整理します。

この記事の要点

  • 開業資金は「一度だけかかるお金」「毎月の事務所の維持費」「売上が立つまでの生活費」の3つに分けて考える。いちばん大きいのは生活費。
  • 登録料は全国共通で6万円。社労士会の入会金と年会費を足すと、東京で開業する場合の1年目は20万6,000円(年会費を1年分払った場合)。
  • 開業5年未満の事務所は、売上の中央値が135万円、顧問先の数の中央値が2社。1年目の売上をあてにしすぎない資金計画にする。
  • 開業5年未満の55.0%は自宅に事務所を置いている。所長1人の事務所では65.0%。
  • 借りる場合は、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」などの創業融資が選択肢になる。借りるかどうかは、返せる計画があるかで決める。

開業資金は「3つの箱」に分けて考える

開業資金というと、登録料やパソコン代を思い浮かべがちです。けれど、社労士の開業で本当にお金がかかるのは、売上がまだ少ない時期の生活費です。必要な資金は、次の3つに分けて考えると見通しやすくなります。

箱主な中身特徴
① 一度だけかかるお金登録料、入会金、特別会費、印鑑、パソコン、ホームページの制作金額は調べればわかる。開業前にほぼ確定する
② 毎月の事務所の維持費社労士会の年会費、ソフト、通信、保険、(借りる場合は)家賃売上がゼロでも毎月出ていく
③ 売上が立つまでの生活費家賃、食費、社会保険料、税金など何か月分必要かは、売上の立ち上がり方しだい

①と②は、開業前に一つずつ見積もれば金額が出ます。むずかしいのは③で、「何か月で生活費をまかなえる売上になるか」によって、必要な金額が大きく変わります。

① 一度だけかかるお金:社労士会まわりで20万〜30万円

登録料は全国共通で、入会金と年会費は都道府県の社労士会ごとに違います。開業会員(社労士法人の社員を含む)の金額を、各会の公式ページで確認しました。

社労士会登録料入会金特別会費(入会時のみ)年会費1年目の合計(年会費1年分の場合)
東京60,000円50,000円―96,000円206,000円
大阪60,000円150,000円―84,000円294,000円
愛知60,000円100,000円30,000円84,000円274,000円
京都60,000円100,000円30,000円96,000円286,000円

登録料は、登録免許税30,000円と登録手数料30,000円の合計です。入会した年度の年会費は月割りなどで計算されるため、実際の1年目の支払いは表より少なくなることがあります(東京の開業会員の場合は「入会月から3月までの月数×8,000円」)。

このほかに、パソコン、電子申請や給与計算のソフト、名刺、ホームページなどがかかります。これらは選ぶものによって金額が大きく違うので、自分が使うものを一つずつ見積もって①に足してください。社労士会ごとの費用の違いや、印鑑・バッジの単価の例は社労士の年会費・登録料・維持費にまとめています。

② 毎月の事務所の維持費:「売上ゼロでも出ていくお金」

②は、顧問先がまだいなくても毎月かかるお金です。社労士会の年会費は、月にすると東京・京都で8,000円、大阪・愛知で7,000円です。これに、ソフトの利用料、電話やインターネット、賠償責任保険などが加わります。

②でいちばん差が出るのは家賃です。自宅で始めれば、家賃は生活費の中にすでに入っています。外に事務所を借りると、毎月の固定費が一気に増えます。これは次の章でくわしく見ます。

③ 売上が立つまでの生活費:開業5年未満の売上の中央値は135万円

全国社会保険労務士会連合会の「2024年度社会保険労務士実態調査」では、開業5年未満の事務所の状況は次のとおりです。

項目開業5年未満(参考)全体
年間売上の中央値135万円550万円
売上が「収入なし」17.1%―
売上が「500万円未満」49.4%―
顧問先の数の中央値2社10社
顧問先が「0社」33.2%16.5%
「経済面の不安定さ」に不安を感じる58.3%47.1%

開業5年未満の事務所の3分の1は、顧問先がまだ1社もありません。ここで大事なのは、135万円は「売上」であって、生活に使えるお金ではないということです。ここから②の維持費や税金・社会保険料が出ていきます。

つまり、何も準備しないまま開業すると、1年目の売上で生活費をまかなうのはむずかしいのがふつうです。開業資金は、「1年目の売上はほとんどあてにしない」くらいの前提で考えておくと安心です。

試算の例:東京で自宅開業する場合

ここでは、考え方をつかむための試算の例を示します。社労士会まわりの金額は公式ページの金額ですが、それ以外は説明のために置いた仮の数字です。ご自身の生活費や使うものに置きかえて計算してください。

項目金額根拠
登録料・入会金・年会費(1年分)206,000円東京都社労士会・連合会の公式ページ
パソコン・ソフト・ホームページなどの初期費用300,000円仮の数字
事務所の維持費(年会費以外)月30,000円仮の数字
生活費(社会保険料・税金を含む)月300,000円仮の数字

この前提で、1年間の資金を計算すると次のようになります。

ケース計算必要な資金
A:1年目の売上がほとんどない場合206,000円+300,000円+(30,000円+300,000円)×12か月約447万円
B:1年目に売上135万円(開業5年未満の中央値)が入る場合Aから135万円を引く約312万円

※売上にかかる税金や、売上が入るタイミングのずれは考えていません。顧問料が入金されるのは契約の翌月以降になることも多いため、実際にはもう少し余裕を見ておくと安心です。

この試算でわかるのは、開業資金の大半は③の生活費だということです。社労士会まわりの費用は全体の1割にも届きません。生活費を月5万円下げられれば、1年で60万円変わります。開業前に家計を見直しておくことは、事務所の資金計画そのものです。

研究所の目安:1年目550万円・顧問先10社前後

フツーの社労士脱却研究所では、開業1年目に売上550万円(全体の中央値)・顧問先10社前後、2年目に1,000万円を目安にしています。1年目に550万円に届けば、生活費の大部分を売上でまかなえるようになります。

ただし、これは開業前から「誰に・何を・いくらで・どう知ってもらうか」を決め、紹介以外の入口を用意したうえでの目安です。全国の開業5年未満の中央値は135万円なので、資金計画は中央値(ケースB)か、売上がほとんどないケース(A)で組み、目安に届いたら余裕になる、という順番で考えるのが安全です。

自宅で開業するか、事務所を借りるか

開業直後は自宅が多数派

実態調査で、事務所が「居宅内にある」割合は次のとおりです。

区分自宅に事務所がある割合
開業社労士全体49.1%
開業5年未満55.0%
所長1人の事務所65.0%
2人の事務所40.9%
3人の事務所23.0%
売上「500万円未満」の事務所69.6%
売上「1,000万円以上2,000万円未満」の事務所33.0%

開業直後や所長1人のうちは自宅で始める人が多く、人を雇い、売上が増えるにつれて外に事務所を持つ人が増えていきます。最初から事務所を借りなければ仕事にならない、ということはありません。

自宅開業と事務所を借りる場合の比べ方

比べるところ自宅で開業事務所を借りる
毎月の固定費増えにくい家賃・光熱費・通信費が増える
来客・面談顧問先の会社に出向く、オンラインで行うなどの工夫が必要事務所で面談できる
書類と個人情報の保管鍵のかかる保管場所、家族と分けた作業スペースが必要分けやすい
住所の公開登録やホームページで事務所の所在地が知られる自宅住所を出さずにすむ
仕事と生活の切り替え自分で区切りをつける必要がある区切りをつけやすい
税金家賃や光熱費のうち、業務に使った部分を分けて考える事務所の家賃は業務の費用

自宅を事務所にする場合、自宅の家賃や光熱費は仕事と生活の両方にかかわる「家事関連費」になります。国税庁の説明では、必要経費にできるのは業務に必要だったと明らかに区分できる部分だけです。分け方は、開業前に税理士に相談しておくと安心です。

迷ったら「人を雇うとき」を区切りにする

実態調査の数字を見ると、所長1人では65.0%が自宅、3人になると23.0%まで下がります。自宅で始めて、スタッフを雇うころに外へ出るのは、多くの事務所がたどっている流れです。最初の1年は、家賃を払うより、その分を生活費の余裕や、事務所を知ってもらう入口づくりに回すほうが、売上につながりやすいでしょう。

開業資金を借りるときの選択肢

日本政策金融公庫の創業融資

自己資金だけでは足りない場合の選択肢として、日本政策金融公庫(国民生活事業)の創業融資があります。代表的な「新規開業・スタートアップ支援資金」の概要は、公式ページでは次のように書かれています。

項目公式ページの記載
利用できる人新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方
使いみち新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする設備資金および運転資金
融資限度額7,200万円
返済期間設備資金は20年以内(うち据置期間5年以内)、運転資金は10年以内(うち据置期間5年以内)
利率基準利率。女性、35歳未満または55歳以上の方などは特別利率
担保・保証人希望を聞きながら相談

また、公庫の「創業融資のご案内」では、新たに事業を始める方や、事業開始後に税務申告を2期終えていない方は、原則として無担保・無保証人で利用でき、利率が原則0.65%引き下げになると案内されています。

ただし、利用には事業計画の確認があり、公式ページにも「審査の結果、お客さまのご希望に沿えないことがございます」と書かれています。7,200万円は上限であって、誰でもその額を借りられるわけではありません。

借りる前に考えておきたいこと

社労士の開業は、大きな設備がいらない仕事です。借りる場合も、「何に使い、毎月いくらずつ、どの売上から返すのか」を先に決めておくことが大事です。

  • 生活費の不足を借入で埋める計画になっていないか。
  • 返済が始まる時期までに、返済額を上回る顧問料が入る見込みがあるか。
  • 借りなくても、開業時期を後ろにずらす・勤めながら準備する期間をとる、で対応できないか。

借りるかどうか、いくら借りるかは、事業計画を持って公庫の窓口や税理士に相談して決めてください。この記事は借入をすすめるものではありません。

将来への備え:小規模企業共済

個人事業主が自分の退職金を積み立てる制度として、中小機構の「小規模企業共済」があります。中小機構のページでは、掛金は月1,000円〜70,000円の範囲で500円単位で選べ、加入後も増額・減額ができ、掛金は全額を所得から控除できると案内されています。

ただし、開業直後は手元の資金を残しておくことが先です。売上が安定してきてから、税理士と相談して検討するくらいの順番で十分です。

開業1年目の月ごとの過ごし方

開業1年目は、手続き・入口づくり・お金の確認を、月ごとに区切って進めると迷いにくくなります。登録や届出の手続きそのものは社労士の開業準備の流れにまとめているので、ここでは開業してからの1年に絞ります。

時期仕事でやることお金でやること
開業月知り合い一人ひとりに、開業したことと「誰の、どんな困りごとを助けるか」を伝える。ホームページ・名刺・料金表を出す事業用の口座を分ける。領収書を日付順に保管しはじめる
1〜2か月目初回相談の流れを決め、相談を受けるたびに直す税務署への届出を確認する(青色申告の承認申請は、1月16日以後に開業した場合は開業日から2か月以内)
3か月目問い合わせ・初回相談・契約の数を振り返る手元の資金が「あと何か月もつか」を計算し直す
4〜6か月目ホームページやSNSで、顧問先候補が検索する困りごとへの答えを発信し続ける。セミナーや相談会を試す半年分の売上と支出をまとめ、試算の例のAかBのどちらに近いかを見る
7〜9か月目反応のよかった入口に時間を寄せ、反応のない入口はやめる。料金表を見直す確定申告に向けて、帳簿の抜けがないかを確かめる
10〜12か月目2年目の目標(顧問先の数と単価)を決める。手が回らない仕事を書き出す2年目の資金計画を立て直す。必要なら税理士に相談する

ポイントは、3か月ごとに「お金があと何か月もつか」を計算し直すことです。開業前の試算どおりに進むことはまずありません。早めにずれに気づけば、生活費を見直す、入口を増やす、などの手を打てます。

なお、国税庁の手続案内(2026年10月23日確認)では、個人事業の開業届出書は「事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限まで」に提出するとされています。期限は改正されることがあるので、開業前に国税庁のページで確認してください。

1年目にやること・やらないこと

やること

やること理由
「誰の、どんな困りごとを助けるか」を一言で言えるようにする開業5年未満の72.5%が「顧客獲得の難しさ」に不安を感じている。伝わる一言がないと紹介もされにくい
紹介以外の入口を、開業と同時に1つは動かす紹介だけを待つと、売上の立ち上がりが読めない
料金表をつくり、安く受けすぎない開業時の顧問料は、あとから上げにくい
3か月ごとに資金の残り月数を計算する試算と実際のずれに早く気づける
領収書と帳簿を毎月まとめる開業前に払ったお金は「開業費」として扱える場合がある。日付のわかる形で残しておく

国税庁の質疑応答事例では、開業費の償却は60か月の均等償却か任意償却のどちらかで計算するとされています。どのお金が開業費に当たるかは、税理士か税務署に確認してください。

やらないこと

やらないこと理由
売上が立つ前に事務所を借りる所長1人の事務所の65.0%は自宅。家賃は売上がゼロでも出ていく
高い設備や広告に、最初にまとめてお金を使う何が効くかわからないうちは、小さく試して反応を見るほうが資金が長くもつ
「とりあえず数」で安い顧問契約を増やす手が回らなくなるうえ、単価を上げにくい
借入を前提に生活費の計画を立てる返済が始まると、毎月の固定費がさらに増える
何でも引き受ける強みが伝わらず、入口の発信もぼやける

社労士は、手続きの代行だけでなく、採用・定着・評価・組織づくりなど、労務と人の問題で経営者に伴走できる仕事です。1年目から手続き以外の支援を商品にしておくと、1社あたりの単価を上げやすく、少ない顧問先でも資金がもちやすくなります。顧問料の決め方は社労士の顧問報酬の相場と決め方、顧問先を増やす入口は社労士が顧問先を増やす方法で解説しています。

よくある質問

社労士の開業資金は、いくら用意すればいいですか?

人によって大きく違いますが、目安は「一度だけかかるお金+(毎月の事務所の維持費+生活費)×売上が立つまでの月数」です。社労士会まわりの費用は、東京で開業する場合の1年目で20万6,000円(年会費を1年分払った場合)です。開業5年未満の売上の中央値は135万円なので、1年目の売上はあまりあてにせず、生活費を中心に計算しておくと安心です。

自宅で開業しても仕事は取れますか?

自宅で開業している人は多く、開業5年未満では55.0%、所長1人の事務所では65.0%が自宅に事務所を置いています。面談は顧問先の会社に出向く、オンラインで行うなどの工夫ができます。書類と個人情報の保管場所、自宅住所が知られることへの備えは、開業前に考えておきましょう。

開業資金は借りたほうがいいですか?

借りるかどうかは、返せる計画があるかで決めてください。日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」は、新たに事業を始める方などが対象で、融資限度額は7,200万円、審査があります。社労士の開業は大きな設備がいらないため、まずは生活費を見直す、勤めながら準備する期間をとる、なども含めて考え、公庫の窓口や税理士に相談しましょう。

開業1年目に、いちばん大事なことは何ですか?

「誰の、どんな困りごとを助けるか」を決めて、紹介以外の入口を開業と同時に動かすことです。あわせて、3か月ごとに「手元の資金があと何か月もつか」を計算し直しましょう。開業5年未満の事務所の顧問先の中央値は2社です。最初の顧問先を早くつくることが、そのまま資金の余裕につながります。

出典

費用・融資制度・共済制度・税務の手続きと期限は2026年10月23日時点で各発表元のページを確認した内容です。試算の例は考え方を示すためのもので、社労士会の費用以外は仮の数字です。融資や税務の個別の判断は、日本政策金融公庫の窓口、税理士または税務署にご確認ください。