会員の方は 会員ログイン ›

社労士の営業方法|営業が苦手でも顧問契約が取れる進め方と、狙うべき営業先

「社労士になったのは、営業がしたかったからではない」。開業した方から、よく聞く言葉です。全国の実態調査でも、開業社労士の63.7%が「顧客獲得の難しさ」に不安を感じています。けれど、社労士の営業は、商品を押しつけることではありません。相手の困りごとを聞いて、解決の道筋を見せることです。この記事では、全国の実態調査の数字と、600以上の社労士事務所が加盟したサービスを運営してきた経験をもとに、営業が苦手な方でも顧問契約につながる進め方を整理します。

この記事の要点

  • 社労士の営業は「売り込む」より「相談される」形のほうが、成約しやすく、値引きもされにくい。
  • 営業先は「困りごとが多く、社内に専任がいない会社」。顧問先の20.9%は従業員30〜99人の会社で、日本の会社全体に占める割合(3.9%)の5倍以上。
  • 営業は3段階。①相談が来る入口をつくる ②初回相談で困りごとを聞く ③解決の道筋と料金を見せる。
  • いま需要が伸びているのは労務相談(71.5%の社労士が「5年前より増えた」)。手続より相談を営業の軸にする。
  • 料金は3つのプランで見せ、値引きではなく範囲で調整する。

社労士の営業が「苦手」に感じる理由

営業が苦手だと感じる理由は、たいてい次のどれかです。

  • 知らない会社に電話や訪問をするのが、性に合わない。
  • 何を提案すればいいのかわからず、「何でもやります」になってしまう。
  • 料金を言うときに気が引けて、つい安くしてしまう。

どれも、社労士としての力とは関係ありません。そして、どれもやり方を変えれば解決できるものです。

開業社労士の事務所は所長1人だけのところが56.4%と、半数を超えます(全国社会保険労務士会連合会「2024年度社会保険労務士実態調査」)。多くの事務所では、営業担当がいるわけではなく、所長自身が営業をすることになります。だからこそ、自分に合った、無理のない営業の型を持つことが大切です。

社労士の営業は3段階で考える

段階やること苦手な人がつまずきやすいところ
① 入口相談が来る場所をつくる飛び込み・電話営業から始めようとする
② 初回相談困りごとを聞き、整理する自分の説明ばかりしてしまう
③ 提案解決の道筋と料金を見せる料金を言えず、値引きしてしまう

「営業」というと②③を思い浮かべがちですが、いちばん大事なのは①です。相手から相談が来る形になっていれば、②③は「売り込み」ではなく「相談への答え」になります。

営業先の選び方:どんな会社を狙うか

顧問先の2割は、従業員30〜99人の会社

全国の実態調査で、社労士事務所の顧問先を従業員の規模で分けると、次のとおりです。日本の会社全体の割合と比べると、特徴がはっきりします。

従業員の規模社労士の顧問先に占める割合日本の会社全体に占める割合
29人以下63.9%94.4%
30〜99人20.9%3.9%
100〜299人4.4%1.2%
300人以上2.6%0.5%

(顧問先の割合は不明8.2%を含む。日本の会社全体は「令和3年経済センサス-活動調査」をもとにした調査報告書の数字。集計のしかたが違うため、単純には比べられません)

顧問先の数がいちばん多いのは29人以下の会社です。ただ、30〜99人の会社は、日本の会社全体では3.9%しかないのに、顧問先では20.9%を占めています。人が増えて、社長ひとりでは労務を見きれなくなった会社ほど、社労士と顧問契約を結んでいることがわかります。

狙いやすい会社の特徴

  • 人が増えている:採用が続いている、拠点や店舗が増えた
  • 社内に労務の専任がいない:社長や経理担当が兼務している
  • 労務の困りごとが起きやすい業種:介護、建設、運送、飲食、医療など、シフト・残業・離職の悩みが多い業種
  • 今の社労士に不満がある:手続はしてくれるが、相談に乗ってくれない

「どんな会社でも」ではなく、業種・規模・困りごとを1つずつ決めると、紹介を頼むときも、発信するときも、言葉が具体的になります。

いま伸びているのは「相談」の需要

同じ調査で、5年前と比べた顧客からの需要の変化を聞いた結果です。

業務「増えた」と答えた割合
労働・社会保険に関する相談71.5%
規程の作成・改定66.2%
手続(関連する相談を含む)59.1%
コンサル(制度設計など)57.7%
給与計算50.1%
助成金42.1%

(「増えた」と「やや増えた」の合計)

大きく増えたものとして、労務相談、コンサル、トラブル・ハラスメント対応などがよく挙げられています。手続はクラウドのサービスで社内で済ませる会社も増えています。営業でも、「手続をやります」より「人のことで困ったときに相談できます」を軸にするほうが、選ばれる理由になります。相談の仕事のつくり方は社労士の3号業務で解説しています。

① 入口:相談が来る形をつくる

営業が苦手な方ほど、飛び込みや電話から始めないほうがうまくいきます。代わりに、相手が自分から相談したくなる入口をつくります。

  • 紹介してくれる人に、紹介してほしい相手を伝える。「従業員30人前後で、採用に困っている会社がいたら」のように具体的に。
  • ホームページや記事で、困りごとへの答えを公開する。検索した社長が「この人に相談したい」と思える内容を置きます。
  • セミナーや勉強会を開く。役に立つ話をして、個別の相談を希望した方とだけ次の話をします。

入口のつくり方は社労士の集客方法13選と社労士が顧問先を増やす方法で解説しています。

② 初回相談:話すより、聞く

初回相談は、事務所の説明をする場ではありません。社長が何に困っていて、どうなりたいのかを聞く場です。目安として、時間の7割は聞く側に回ります。

初回相談の流れ(60分の例)

時間やること
最初の5分今日の進め方と、終わりに何を持ち帰ってもらうかを伝える
25分会社のこと、困りごと、これからどうしたいかを聞く
15分聞いた内容を整理して、解決の順番を見せる
10分事務所でお手伝いできることと、進め方を伝える
最後の5分次の一歩(提案書を送る日、検討の期限)を決める

聞くことのリスト

  • 従業員の数と、この1〜2年の増減
  • 今いちばん困っていること(採用、退職、残業、トラブル、手続の手間など)
  • これまでどう対応してきたか、誰が担当しているか
  • 3年後、会社をどうしたいか
  • 社労士に頼むとしたら、何を期待するか

社長の言葉をそのまま書き留めておくと、提案書を作るときに相手の言葉で書けるので、伝わり方がまったく変わります。

問い合わせの電話で、金額だけを即答しない

「顧問料はいくらですか」と聞かれたら、目安の幅は伝えつつ、「会社の状況をうかがって、合うプランをご提案します」と初回相談につなげます。金額だけで比べられると、安い事務所が選ばれます。

その場で「解決の順番」を見せる

話を聞いたら、その場で困りごとを並べ、どれから手をつけるかを一緒に決めます。たとえば「まず就業規則と雇用契約書を整える → 次に求人票を見直す → 半年後に評価の仕組みを考える」のように。

この時点で、社長には「この人に頼めば、順番に片づいていく」という見通しが生まれます。これが、売り込まなくても契約につながる理由です。

③ 提案:料金は3つのプランで見せる

提案書に書くこと

  1. 初回相談で聞いた困りごと(社長の言葉で)
  2. 解決の順番と、それぞれで何をするか
  3. 料金のプランと、それぞれに含まれること・含まれないこと
  4. 始めるまでの流れと、最初の1か月にやること

3つのプランを用意する

料金を1つだけ出すと、相手は「頼むか、頼まないか」で考えます。3つのプランを並べると、「どれにするか」の話になります。

プラン含めるもの(例)
手続中心日常の手続と、メール・電話での相談
相談つき上に加えて、月1回の打ち合わせと規程の見直し
経営伴走上に加えて、採用・定着・評価など、人の仕組みづくりの支援

真ん中のプランを、いちばんすすめたい内容にしておくと選ばれやすくなります。含まれないこと(範囲外)も先に書いておくと、あとで揉めません。料金の決め方は社労士の顧問報酬の決め方で解説しています。

値引きをしない

「少し高いですね」と言われても、すぐに値引きはしません。代わりに、プランの中身を減らして金額を合わせる提案をします。値引きをすると、その金額が事務所の価値として記憶され、あとから上げるのがとても難しくなります。

営業ツール:用意しておくもの

ツール中身使う場面
名刺「誰の、どんな困りごとに強いか」を一言で初対面・紹介
事務所の案内(1枚)強み、できること、料金の目安、所長の経歴紹介者に渡してもらう
料金表3つのプランと、範囲外初回相談のあと
提案書のひな形困りごと → 解決の順番 → プラン初回相談のあと
チェックシート「就業規則の見直しチェック10項目」などセミナー・紹介の手土産
お役立ち記事ホームページやnoteの記事初回相談の前後に送る

特に、紹介者に渡してもらう1枚の案内と、手土産になるチェックシートがあると、紹介が起きやすくなります。

飛び込み・テレアポ・営業代行は使うべきか

方法向いている人・場面気をつけること
飛び込み営業人と会うのが苦にならない。地域を決めて回れる決裁者に会えないことが多い。苦手な人は続かない
テレアポ・問い合わせフォーム営業業種や規模を絞ったリストがある相手は困っていない時期のことが多い。値引きを求められやすい
営業代行強み・料金・提案の型が決まっていて、面談を増やしたい型が決まる前に頼むと、面談しても契約にならない
交流会開業直後で、知り合いを増やしたい「売り込みの場」にしない。紹介し合える士業を探す場に

営業が苦手な方は、無理に始めなくて大丈夫です。相手から相談が来る入口をつくるほうが、成約しやすく、値引きもされにくくなります。

断られたあとが、次の入口になる

提案して断られても、それで終わりではありません。「今は時期ではない」という会社は少なくありません。

  • 断られたときは、理由を一言だけ聞いておく。
  • 法改正のお知らせやセミナーの案内など、役に立つ情報を定期的に届ける。
  • 半年後、1年後に「その後いかがですか」と連絡する。

会社の状況が変わったとき(従業員が増えた、トラブルが起きた、担当者が辞めた)に、最初に思い出してもらえる事務所になっておくことが、長い目で見たいちばんの営業です。

開業・独立したばかりの方の営業

開業直後は、実績も顧問先もありません。だからこそ、次の順番で進めるのがおすすめです。

  1. 知り合いに、開業したことと「誰の、どんな困りごとを助けるか」を伝える。一斉のあいさつではなく、一人ひとりに。
  2. 無料の相談会やセミナーを開く。話す練習にもなり、初回相談の型が身につきます。
  3. 最初の顧問先には、特に丁寧に。最初の数社が、次の紹介と、ホームページに書ける実績になります。

全国の実態調査では、開業5年未満の事務所の売上の中央値は135万円です。開業後の道のりは社労士の開業の現実、開業前の準備は社労士の開業準備の流れで解説しています。

よくある質問

社労士として営業するには、どうしたらいいですか?

まず「誰の、どんな困りごとを助けるか」を一言で言えるようにし、その相手から相談が来る入口(紹介、ホームページ・記事、セミナー)をつくります。相談が来たら、初回相談で困りごとを聞いて解決の順番を見せ、3つのプランで料金を提案します。売り込むより、相談される形をつくるほうが成約しやすくなります。

営業が苦手でも、社労士でやっていけますか?

やっていけます。社労士の営業は、商品を押しつけることではなく、困りごとを聞いて解決の道筋を見せることです。話すより聞く時間を長くとる、料金を3つのプランで見せる、という型を持てば、営業が苦手な方でも顧問契約につながります。

社労士は飛び込み営業や電話営業をしたほうがいいですか?

向いている方もいますが、営業が苦手な方には、おすすめしません。相手から相談が来る入口(紹介の仕組み、ホームページや記事、セミナー)をつくるほうが、成約しやすく、値引きもされにくくなります。

営業先は、どんな会社を狙えばいいですか?

人が増えていて、社内に労務の専任がいない会社です。全国の実態調査では、顧問先の20.9%が従業員30〜99人の会社で、日本の会社全体に占める割合(3.9%)よりずっと高くなっています。業種・規模・困りごとを1つずつ決めておくと、紹介も発信も具体的になります。

初回相談は無料にしたほうがいいですか?

無料にするかどうかは事務所の方針しだいです。無料にする場合は、時間を決めておき(60分など)、その場で具体的な手続や書類の作成まで踏み込まないことが大切です。初回相談は「困りごとを聞いて、解決の順番を見せる」場と決めておきましょう。

営業代行を使うのはどうですか?

営業代行で面談の数を増やすことはできますが、事務所の強みや料金が決まっていないと、面談しても契約につながりにくくなります。まずは「誰の、どんな困りごとを助けるか」と料金のプランを決めてから検討しましょう。

まとめ

  • 社労士の営業は「売り込み」ではなく、「相談される入口をつくり、困りごとを聞き、解決の道筋と料金を見せる」仕事です。
  • 営業先は、人が増えていて社内に専任がいない会社。顧問先の20.9%は従業員30〜99人の会社です。
  • 需要が伸びているのは労務相談(71.5%の社労士が「増えた」)。手続より相談を営業の軸にします。
  • 料金は3つのプランで見せ、値引きではなく範囲で調整します。断られた会社にも、情報を届け続けます。

出典

  • 全国社会保険労務士会連合会・社会保険労務士総合研究機構「2024年度社会保険労務士実態調査」詳細版(2024年11月8日公表)。「13.事務所の規模」「22.年間売上(収入)金額」「25.顧問契約社数」(図25-2・図25-3)「30.社労士としての職業生活において感じる不安やストレス」「32.過去と比べた需要変化」(図32-1)
    https://www.shakaihokenroumushi.jp/Portals/0/doc/nsec/souken/2024/202411_2024srchousa_shousai.pdf(2026年10月20日確認)
  • 日本の会社全体の規模別の割合は、上の調査報告書が総務省・経済産業省「令和3年経済センサス-活動調査」をもとに算出した数字です。

数字以外の進め方・営業ツール・向き不向きは、社労士事務所の支援の現場での経験にもとづくものです。