社労士のマーケティング|集客・営業との違いと、顧問先が増え続ける仕組みの作り方
「マーケティング」と聞くと、広告やSNSのことだと思う方が多いかもしれません。けれど社労士事務所にとってのマーケティングは、売り込まなくても、顧問先が増え続ける仕組みをつくることです。この記事では、600以上の社労士事務所が加盟したサービスを運営してきた経験と、全国の実態調査の数字をもとに、社労士のマーケティングの考え方と、明日から始められる手順を整理します。
この記事の要点
- マーケティングは「売れる仕組みづくり」、集客は「見つけてもらうこと」、営業は「相談を契約にすること」。順番はマーケティング → 集客 → 営業。
- 社労士事務所の顧問先の数は平均33.2社、中央値10.0社。半数の事務所は10社以下で、増やす仕組みに伸びしろがある。
- 仕組みは5ステップ。①誰に ②何を ③いくらで ④どう知ってもらうか ⑤数字で回す。
- 需要が伸びているのは労務相談(71.5%の社労士が「増えた」)。相談を商品にすることが、これからのマーケティングの中心。
- いまは検索だけでなく、ChatGPTなどのAIに事務所を見つけてもらう準備も必要になっている。
社労士のマーケティング・集客・営業の違い
3つの言葉は混ざって使われがちですが、役割が違います。
| 何をすること? | 社労士事務所での例 | |
|---|---|---|
| マーケティング | 誰に、何を、いくらで、どう届けるかを決め、顧問先が増え続ける仕組みをつくる | 「介護事業所の離職の悩みに強い」と決め、相談つきのプランと料金をつくり、届け方と振り返り方を決める |
| 集客 | 困っている会社に、事務所を見つけてもらう | ホームページ、ブログ、紹介、セミナー、SNS |
| 営業 | 来た相談を、顧問契約にする | 初回相談、提案書、料金の提示 |
マーケティングで「誰に・何を・いくらで」が決まっていないと、集客しても人が集まらず、営業しても値引きを求められます。順番は、マーケティング → 集客 → 営業です。集客の方法は社労士の集客方法13選、営業の進め方は社労士の営業方法で解説しています。
いま、社労士にマーケティングが必要な理由
半数の事務所は、顧問先が10社以下
全国社会保険労務士会連合会の「2024年度社会保険労務士実態調査」では、事務所の顧問先の数は平均33.2社、中央値10.0社です。顧問先が100社を超える事務所がある一方で、半数の事務所は10社以下にとどまっています。
| 顧問先の数 | 事務所の割合 |
|---|---|
| 0社 | 16.5% |
| 1〜9社 | 28.2% |
| 10〜19社 | 13.3% |
| 20〜29社 | 8.8% |
| 30〜49社 | 10.6% |
| 50〜99社 | 10.5% |
| 100社以上 | 8.3% |
(無回答3.8%)
売上の71.9%(平均)は顧問契約から生まれています。顧問先が増え続ける仕組みがあるかどうかが、そのまま事務所の売上を決めます。
顧客獲得に悩む人が多いのに、半数は何も発信していない
同じ調査で、開業社労士の63.7%が「顧客獲得の難しさ」に不安やストレスを感じています。一方で、事務所の50.8%は特に情報発信をしていません。悩んでいるのに、見つけてもらう仕組みがない。ここに大きな伸びしろがあります。
需要は「手続」から「相談」へ動いている
5年前と比べた顧客からの需要の変化を聞くと、「増えた」と答えた割合は、労働・社会保険に関する相談が71.5%でいちばん高く、規程の作成・改定が66.2%、手続が59.1%、助成金は42.1%でした。大きく増えたものとして、労務相談、コンサル、トラブル・ハラスメント対応がよく挙げられています。
手続はクラウドのサービスで社内で済ませる会社も増えています。これからの社労士のマーケティングは、「人のことで困ったときに相談できる」ことを商品にすることが中心になります。
社労士のマーケティング5ステップ
ステップ1:誰に届けるかを決める
「中小企業の皆さま」では、誰の心にも届きません。次の3つを1つずつ決めます。
- 業種:介護、建設、運送、飲食、医療、IT など
- 規模:10人未満、30〜99人 など
- 困りごと:人が辞める、採用できない、残業が多い、評価に不満が出ている
全国の調査では、顧問先の20.9%が従業員30〜99人の会社で、日本の会社全体に占める割合(3.9%)よりずっと高くなっています。人が増えて、社長ひとりでは労務を見きれなくなった会社は、社労士を必要としやすい相手です。
ステップ2:何を届けるか(商品)を決める
決めた相手の困りごとを解決する「商品」をつくります。手続だけでなく、相談・規程づくり・採用や定着の仕組みづくりまで、困りごとの解決として見せるのがポイントです。
| 困りごと | 商品の例 |
|---|---|
| 人が辞める | 定着の診断+面談の仕組みづくり+月1回の相談 |
| 採用できない | 求人票の見直し+採用の流れの整備 |
| 残業が多い・トラブルが心配 | 就業規則・36協定の整備+労務相談 |
相談・コンサルの仕事を商品にする方法は、社労士の3号業務で解説しています。
ステップ3:いくらで届けるか(料金)を決める
料金は1つではなく、3つのプランで見せます(手続中心/相談つき/経営伴走 など)。「頼むか、頼まないか」ではなく「どれにするか」の話になり、値引きも求められにくくなります。
顧問先1社が長く続くほど、事務所の売上は積み上がります。たとえば月3万円の顧問先が4年続けば144万円です(数字は計算の例です)。1社に長く続けてもらえる価値を考えると、1社と出会うためにかけてよい手間や費用も見えてきます。料金の決め方は社労士の顧問報酬の決め方、上げ方は社労士の顧問料アップ完全ガイドで解説しています。
ステップ4:どうやって知ってもらうかを決める
決めた相手が、困ったときにどこを見るかを考えて、入口を選びます。
- 地域の会社なら:Googleビジネスプロフィール、地域名の入ったホームページ、商工会議所や金融機関とのつながり
- 業種を絞るなら:業種の困りごとに答えるブログ記事、業界団体の勉強会
- 紹介を増やすなら:紹介してほしい相手を具体的に伝える、渡しやすいチェックシート
13種類の入口の比べ方は社労士の集客方法13選で解説しています。
ステップ5:数字で回す
マーケティングは、一度決めて終わりではありません。毎月、数字を見て、反応のよい入口を増やし、反応のない入口をやめます。次の章の「顧問先になるまでの流れ」で、見るべき数字を整理します。
顧問先になるまでの流れと、見るべき数字
社長が事務所を知ってから顧問先になるまでには、いくつかの段階があります。どこで止まっているかがわかれば、打つ手が決まります。
| 段階 | 社長の状態 | 見る数字 | 止まっているときの打ち手 |
|---|---|---|---|
| 知る | 事務所の名前や記事を目にする | ホームページを見た人の数、検索での表示回数 | 記事を増やす、Googleビジネスプロフィールを整える |
| 興味 | 「この事務所は自分の会社に合いそう」と思う | 料金や事務所紹介のページを見た人の数 | 強みと相手を一言で書く、料金を載せる |
| 相談 | 問い合わせる、セミナーに来る | 問い合わせ・セミナー申込みの数 | 問い合わせる理由(無料相談、チェックシート)を用意する |
| 契約 | 顧問契約を結ぶ | 相談から契約になった割合 | 初回相談の流れと提案書を見直す |
| 継続・紹介 | 続けて頼み、知り合いに紹介する | 解約の数、紹介の数 | 定期的な面談、紹介してほしい相手を伝える |
まずは「問い合わせの数」と「契約になった数」の2つだけでも、毎月記録してみてください。どの入口から来た相談が契約になりやすいかが、数か月で見えてきます。
社労士のマーケティングは「1.0 → 4.0」と進化する
| 段階 | やり方 | 止まりやすいところ |
|---|---|---|
| 1.0 紹介頼み | 顧問先や知り合いからの紹介を待つ | いつ、どこから来るか自分で決められない |
| 2.0 ホームページ | サイトをつくって、見つけてもらうのを待つ | つくったきりになる |
| 3.0 手作業の発信 | 所長が自分でブログやSNSを書く | 忙しい月に止まる |
| 4.0 仕組みで発信し続ける | 強みをもとに、生成AIと仕組みで発信を続け、反応を見て良くしていく | ― |
多くの事務所は1.0か、3.0の「続かない」壁で止まっています。マーケティングの5ステップで「誰に・何を・いくらで」が決まっていれば、発信の中身はぶれません。あとは続ける仕組みをつくるだけです。当研究所が運営する法改正・助成金の一次情報メディア「労務ソース」は、記事の作成から公開、SNSでの告知までを仕組みで回しています。
AI検索の時代に、社労士がやっておくこと
いまは、社長がGoogleで検索するだけでなく、ChatGPTなどのAIに「〇〇市で、介護に強い社労士は?」と聞くことも増えています。AIは、インターネット上の情報をもとに答えます。AIに見つけてもらうために、次のことをやっておきましょう。
- 強み・相手・料金・地域を、ホームページにはっきり書く。「何でもできます」ではAIも紹介しようがありません。
- 所長の名前・経歴・資格を、ページに書く。誰が書いた情報かがわかるほど、信頼されやすくなります。
- よくある質問に、そのまま答える記事を置く。社長がAIに聞きそうな質問は、そのまま答えとして引用されやすくなります。
- 数字や制度は、国や連合会の資料で確かめ、出典を書く。正しい情報を出している事務所ほど、紹介されやすくなります。
発信の土台になるホームページとブログの作り方は、社労士のホームページ集客と社労士のブログ集客で具体的に解説しています。
社労士のマーケティングでよくある失敗
- 手段から始める:「とりあえずInstagram」の前に、誰に・何を・いくらでを決めます。
- 料金の安さを売りにする:安さで来た顧問先は、もっと安い事務所が出てくると離れていきます。
- 数字を見ない:問い合わせの数と契約の数を記録しないと、何が効いているかわかりません。
- 全部を所長ひとりで抱える:発信は、生成AIや外の手を借りて続く形にします。
よくある質問
社労士のマーケティングとは何ですか?
誰に、何を、いくらで、どうやって届けるかを決め、売り込まなくても顧問先が増え続ける仕組みをつくることです。ホームページやSNSなどの集客、初回相談などの営業は、その仕組みの一部です。
マーケティングと営業は、どちらを先にやるべきですか?
マーケティングが先です。誰に・何を・いくらで届けるかが決まっていないと、営業で何を提案すればいいかが定まらず、値引きを求められやすくなります。決まっていれば、営業は「相談への答え」になります。
社労士のマーケティングは、何から始めればいいですか?
まず「誰の、どんな困りごとに強い事務所か」を一言で言えるようにします。次に、その困りごとを解決する商品と、3つのプランの料金を決めます。そのうえで、相手が困ったときに見る場所(ホームページ、Googleビジネスプロフィール、紹介者など)に入口をつくります。
社労士は、Webマーケティングをしたほうがいいですか?
したほうがよいです。紹介された社長も、ほとんどが一度はホームページを見てから連絡してきます。全国の調査では、事務所の半数は特に発信をしていないため、発信している事務所は、それだけで見つけてもらいやすくなります。
社労士がマーケティングで差をつけるには、どうすればいいですか?
手続ではなく「相談」を商品にすることです。全国の調査では、71.5%の社労士が労務相談の需要が5年前より増えたと答えています。業種や困りごとを絞って、その相談に強いことを発信し続けると、料金ではなく中身で選ばれるようになります。
まとめ
- 社労士のマーケティングは、売り込まなくても顧問先が増え続ける仕組みをつくることです。順番は、マーケティング → 集客 → 営業。
- 顧問先の数は平均33.2社、中央値10.0社。半数の事務所は10社以下で、仕組みをつくる伸びしろがあります。
- 仕組みは、①誰に ②何を ③いくらで ④どう知ってもらうか ⑤数字で回す、の5ステップでつくります。
- 需要は手続から相談へ動いています。相談を商品にし、AI検索にも見つけてもらえるよう、強み・料金・所長の情報をはっきり書きましょう。
出典
- 全国社会保険労務士会連合会・社会保険労務士総合研究機構「2024年度社会保険労務士実態調査」詳細版(2024年11月8日公表)。「20.宣伝や情報発信の有無、方法」「25.顧問契約社数」(図25-1・図25-2・図25-3)「26.売上内訳」「30.社労士としての職業生活において感じる不安やストレス」「32.過去と比べた需要変化」(図32-1)
https://www.shakaihokenroumushi.jp/Portals/0/doc/nsec/souken/2024/202411_2024srchousa_shousai.pdf(2026年10月20日確認)
顧問先の数の「30〜49社」「50〜99社」は、調査の区分(30〜39社・40〜49社、50〜59社〜90〜99社)を足し合わせた数字です。マーケティングの手順、段階ごとの打ち手、AI検索への備えは、社労士事務所の支援の現場での経験にもとづくものです。
