会員の方は 会員ログイン ›

社労士の法人化ガイド|社労士法人の設立要件・手続き・費用と、メリット・デメリット、考えるタイミング

顧問先が増えてスタッフも雇うようになると、「そろそろ法人にしたほうがいいのか」と考える所長は多いはずです。社労士事務所の法人化は、株式会社をつくるのとは手続きも決まりも違います。この記事では、社会保険労務士法の規定、設立の手続きと費用、法人化で変わること、法人化を考えるタイミングを、法令と全国社会保険労務士会連合会の公表データだけで整理します。

この記事の要点

  • 社労士事務所の法人化は「社会保険労務士法人」をつくること。社員(出資して経営する人)は全員が社労士でなければならない。
  • 2016年1月1日から、社員1人でも社労士法人を設立できる(一人法人)。ただし後継候補者を決めておく必要がある。
  • 手続きは「定款の作成と公証人の認証 → 法務局で設立登記 → 2週間以内に社労士会を経由して連合会へ届出」。
  • 費用は、定款認証の手数料5万円、連合会への登載手数料2万円、都道府県会の法人の入会金(東京5万円・大阪10万円・愛知10万円)と法人会費。個人の会費とは別にかかる。
  • 社労士法人は3,301法人(2026年3月31日現在、1年で198法人増)。実態調査では、法人の売上の中央値は4,000万円、顧問先の中央値は80社で、個人事務所(500万円・9社)と大きく違う。

社労士法人とは

社労士が設立する、社労士業務のための法人

社会保険労務士法(以下「社労士法」)では、社労士法人を「社労士の業務を行うことを目的として、社労士が設立した法人」と定めています(第25条の6)。株式会社や合同会社とは別の、社労士法にもとづく法人です。

社労士法人について、法律が定めている主なルールは次のとおりです。

項目内容条文
名称名称の中に「社会保険労務士法人」の文字を使わなければならない第25条の7
社員の資格社員は社労士でなければならない。業務停止の処分を受けている人などは社員になれない第25条の8
業務の範囲社労士の業務のほか、定款で定めれば、厚生労働省令で定める業務(連合会の案内では賃金計算業務と社労士に係る労働者派遣事業)や紛争解決手続代理業務も行える第25条の9
成立主たる事務所の所在地で設立の登記をした時に成立する第25条の12
届出成立の日から2週間以内に、登記事項証明書と定款の写しを添えて、社労士会を経由して連合会に届け出る第25条の13
社員の常駐事務所には、その都道府県の社労士会の会員である社員を常駐させなければならない第25条の16
競業の禁止社員は、自分や第三者のために法人の業務の範囲に属する業務を行ったり、ほかの社労士法人の社員になったりしてはならない第25条の18
社員の責任法人の財産で債務を払いきれないときは、各社員が連帯して弁済の責任を負う第25条の15の3

連合会の案内によると、法人の目的に社労士業務と上の業務以外のものを入れることはできません。コンサルティングや研修などを別の事業として大きく広げたい場合は、法人の目的に入れられるかどうかを事前に確認しておく必要があります。

社員1人でも設立できる(一人法人)

以前は社員が2人以上いないと社労士法人を設立できませんでした。連合会の案内によると、第8次社会保険労務士法改正により、2016年(平成28年)1月1日から、社員が1人でも社労士法人を設立できるようになりました。社員が1人になっても、それだけでは解散の理由になりません。

ただし、一人法人には次の決まりがあります(連合会の会則にもとづく取り扱い)。

  • あらかじめ「後継候補者」とその優先順位を決めて、連合会に届け出る(後継候補者は1人でもよい)。
  • 後継候補者とは、社員が亡くなって社員がいなくなったときに、法人を続けるために新しく社員として加入させる候補の社労士のこと。
  • 後継候補者が、当然に社員になるわけではない。

所長1人で開業している事務所でも法人化はできますが、「自分に何かあったとき、誰に引き継ぐか」を最初に決めておくことが求められる、と考えておきましょう。

社労士法人の数

連合会の事業報告によると、社労士法人は3,301法人(2026年3月31日現在)で、前年から198法人増えています。法人の社員として登録している社労士は4,362人(前年は4,127人)です。同じ時点で個人で開業している社労士は25,136人なので、開業している社労士の多くは今も個人事務所です。

設立の手続きの流れ

連合会の案内と社労士法の規定をもとに、設立の流れを整理すると次のようになります。

順番やることポイント
1社員になる社労士が定款をつくる目的、名称、事務所の所在地、社員の氏名と住所、社員の出資、業務の執行に関する事項は必ず書く(第25条の11)
2社員資格証明書を取る所属する社労士会に申請。連合会の案内では発行まで2週間〜1か月程度
3公証人の定款認証を受ける会社法第30条第1項が準用されるため、公証人の認証が必要
4出資金を払い込む連合会の案内では、定款の作成・認証・出資金の払込みなどを終えてから登記する流れ
5法務局で設立登記をする登記をした日に法人が成立する(第25条の12)
62週間以内に連合会へ届出主たる事務所の都道府県会を経由して「社会保険労務士法人設立届出書」を出す
7個人の登録の変更法人の社員や、法人に勤める社労士は、個人の登録の変更手続きも必要

連合会への届出で出すもの

連合会の案内で示されている、主たる事務所に関する届出の書類は次のとおりです。

  • 社会保険労務士法人設立届出書(法人様式第1号)
  • 登記事項証明書
  • 定款の写し
  • 一人法人の場合は、後継候補者届出書(法人様式第3号)と後継候補者同意書(法人様式第4号)

従たる事務所(支店)を置く場合は、別に設置の届出が必要です。様式は都道府県の社労士会から入手します。届出をして法人名簿に登載されると、連合会から登載通知書が1か月程度で届くとされています。

東京で設立する場合の注意

東京都社会保険労務士会の案内では、登記の申請には「社会保険労務士法人の社員資格証明書」が必要で、発行まで2週間程度かかるとしています。新しく登録する人は登録申請と同時に「社員資格証明願」(手数料1,000円)を出すよう案内されています。また、東京会への新規入会と同時に社労士法人を新しく設立することはできないと書かれています。開業登録と法人設立を一度に済ませようと考えている方は、順番を社労士会に確認してから動きましょう。

設立にかかる費用

設立時の費用

項目金額根拠
定款認証の手数料(公証人)50,000円公証人手数料令 第35条
連合会への登載手数料20,000円連合会の案内
社員資格証明書の手数料(東京会の場合)1,000円東京会の案内
都道府県会の法人の入会金50,000〜100,000円(下表)各社労士会の案内

公証人手数料令では、株式会社は資本金の額によって3万円〜5万円ですが、それ以外の定款の認証は5万円と定められています。社労士法人はこちらにあたります。

設立登記にかかる登録免許税については注意が必要です。社労士法人の登記は「組合等登記令」にもとづいて行います(組合等登記令の別表に社会保険労務士法人が掲げられています)。一方、登録免許税法の別表第一(税金がかかる登記の一覧)には、株式会社(最低15万円)や合同会社(最低6万円)の設立登記は載っていますが、社労士法人の設立登記は掲げられていません。株式会社と同じ金額がかかると思い込まず、登記の費用は主たる事務所を管轄する法務局で確認してください。

このほか、司法書士などに登記を頼む場合はその報酬、法人の印鑑の作成、登記事項証明書の取得などの実費がかかります。

都道府県会の法人の入会金と会費

法人になると、個人の入会金・会費とは別に、法人としての入会金と会費がかかります。

社労士会法人の入会金法人の会費
東京50,000円年96,000円(社員1〜5人)
大阪100,000円年84,000円(月7,000円、社員5人まで)
愛知100,000円+特別会費30,000円月7,000円(社員1〜5人)、月14,000円(社員6〜10人)

東京会と愛知県会の案内では、法人の会費とは別に個人の会費も必要と明記されています。たとえば東京で一人法人をつくると、個人の年会費96,000円に加えて法人の会費96,000円がかかり、社労士会の会費だけで年19万2,000円になります。個人の登録費用や都道府県会ごとの会費の違いは、社労士の年会費・登録料・維持費でまとめています。

法人化で変わること(メリット・デメリット)

法人化で何が変わるかを、法律や公的機関の案内で確かめられる範囲で整理します。

項目個人事務所社労士法人
名称「○○社会保険労務士事務所」など「社会保険労務士法人○○」(法人の文字が必須)
契約の相手所長個人法人
所長に何かあったとき所長個人の事務所なので、所長が業務をやめると事務所も続かない社員が残れば法人は続く。一人法人も後継候補者のしくみがある
社会保険常時5人以上の従業員がいれば強制適用社員1人だけでも強制適用
税金所長の事業所得に所得税法人に法人税。社員は役員報酬を受け取る
社労士会の費用個人の会費のみ個人の会費+法人の会費
社員の責任-法人の財産で払いきれない債務は社員が連帯して負う
事務所の数原則1か所(第18条。厚生労働大臣の許可がある場合を除く)従たる事務所を置ける。ただしその県の社労士会の会員である社員の常駐が必要

メリット

1. 事務所が「人」ではなく「法人」になる

顧問契約の相手が法人になるため、所長が交代しても、法人として契約と仕事を続けられます。社員が複数いれば、1人が抜けても事務所は続きます。一人法人でも後継候補者を決めておくしくみがあり、事業承継を考えるときの受け皿になります。

2. 複数の社労士で経営できる

社労士法人では、社員になった社労士が共同で経営し、利益と責任を分け合えます。勤務している社労士を社員に迎えることで、優秀な人に長く残ってもらう道もつくれます。

3. 事務所を複数持てる

個人で開業している社労士は、厚生労働大臣の許可がある場合を除き、事務所を2か所以上設けられません(第18条)。社労士法人は従たる事務所を置けるので、複数の拠点を持ちたい事務所にとっては、法人化が前提になります。ただし、各事務所にその県の社労士会の会員である社員を常駐させる必要があります(第25条の16)。

4. 対外的な見え方

実態調査では、法人の社員のほうが事務所ホームページの開設や情報発信をしている割合が高く、電子申請の利用率も高くなっています(後述)。法人であることそのものより、法人化している事務所は仕組みづくりが進んでいるという傾向がうかがえます。採用や信用の面でどれだけ効果があるかを示す公的なデータはないので、「法人にすれば信用が上がる」と期待しすぎないほうが安全です。

デメリット・注意点

1. 社会保険に必ず加入する

日本年金機構の案内では、厚生年金保険は株式会社などの法人の事業所(事業主のみの場合を含む)が強制適用です。社労士法人も法人なので、社員1人だけでも健康保険・厚生年金保険に加入します。なお、個人の社労士事務所も、2022年10月から常時5人以上の従業員がいれば強制適用になっています。

2. 毎年の固定費が増える

法人の会費が個人の会費に上乗せされます。法人の決算や申告の事務、登記の変更(社員の変更など)も発生します。

3. 役員報酬は自由に変えられない

国税庁の案内では、法人が役員に支払う給与は、定期同額給与・事前確定届出給与・一定の業績連動給与のどれかにあたらないと、法人の損金に算入されません。定期同額給与は、原則として事業年度のはじめから3か月以内に金額を決め、毎月同じ額を払うものです。「売上がよかった月だけ多く取る」という個人事業のような動かし方はできないと考えておきましょう。

4. 社員の責任と競業の禁止

法人の財産で債務を払いきれないときは、社員が連帯して責任を負います(第25条の15の3)。また、社員は個人として同じ業務をしたり、ほかの社労士法人の社員を兼ねたりできません(第25条の18)。さらに、法人の社員は、社労士の業務を行うための自分個人の事務所を設けることができません(第18条第2項)。法人の社員になったら、個人事務所は続けられないということです。複数の社労士で法人をつくるときは、出資、報酬の分け方、抜けるときのルールを定款や社員間の取り決めでしっかり決めておくことが大切です。

税金の損得は、売上や経費、家族構成などで大きく変わります。法人化で税金が安くなるかどうかは、必ず税理士に相談して判断してください。この記事では、税金が得になる・損になるといった判断はしていません。

個人事務所と社労士法人の違い:実態調査のデータ

全国社会保険労務士会連合会の「2024年度社会保険労務士実態調査」では、個人で開業している社労士と、法人の社員とを分けて集計しています。

開業している社労士の9割近くは個人事務所

開業社労士(個人で開業+法人の社員)15,251人に事務所の形を聞いた結果は次のとおりです。

事務所の形割合
個人事務所85.6%
一人法人4.8%
社員が2人以上の社労士法人9.4%

社員が2人以上の法人の割合は、年齢が上がるほど低くなる傾向があります(30〜39歳で14.1%、70歳以上で6.6%)。

売上と顧問先の数は大きく違う

事務所の売上と顧問先の数を、個人事務所の代表(13,061人)と社労士法人の代表社員(1,408人)で比べると次のとおりです。

項目個人事務所社労士法人
年間売上の中央値500万円4,000万円
年間売上の平均1,053.4万円7,203.8万円
売上1億円以上の割合0.6%17.0%
顧問先の数の中央値9社80社
顧問先の数の平均23.4社123.5社
顧問先100社以上の割合4.7%41.5%
売上に占める顧問契約の割合(平均)70.7%82.6%

法人の売上の中央値は個人事務所の8倍、顧問先の中央値は9倍近くです。法人の社員の役員報酬の中央値は600万円で、くわしくは社労士の年収の実態で解説しています。

ただし、これは「規模が大きくなった事務所が法人化している」という面が大きいと考えられます。法人にしたから売上が8倍になるわけではありません。

事務所の運営の違い

項目個人で開業法人の社員
電子申請を7割以上利用している48.6%86.9%
事務所ホームページを開設している35.9%77.3%
ニュースレター等を発行している13.9%40.8%
特段情報発信はしていない54.5%16.5%

法人の事務所は、電子申請や情報発信など、仕事と集客の仕組みづくりが進んでいることがわかります。

法人化を考えるタイミング

売上と顧問先が増えるほど、法人の割合が上がる

実態調査で、売上の区分ごとに法人(一人法人+社員2人以上の法人)の割合を見ると次のとおりです。

売上一人法人社員2人以上の法人法人の合計
1,000万〜2,000万円5.3%2.9%8.2%
2,000万〜3,000万円12.3%7.4%19.7%
3,000万〜5,000万円17.2%16.2%33.4%
5,000万〜1億円19.3%31.3%50.6%
1億円以上18.0%56.5%74.5%

顧問先の数で見ると、50〜59社で法人の合計は20.4%、100社以上で48.6%です。売上2,000万〜3,000万円、顧問先50社前後のあたりから法人化する事務所が増え、売上5,000万円を超えると半数が法人になっています。

法人化を考えたい4つの場面

数字の目安とあわせて、次のような場面にあてはまるときが、法人化を具体的に考えるタイミングです。

  1. ほかの社労士と一緒に経営したい:勤務している社労士を社員に迎えたい、別の事務所と組みたい(社労士法人どうしの合併も、総社員の同意があればできます)。
  2. 事務所を次の世代に引き継ぎたい:所長個人の事務所のままでは、所長が業務をやめると事務所も続きません。
  3. ほかの場所にも拠点を出したい:個人で開業している社労士は、厚生労働大臣の許可がある場合を除き、事務所を2か所以上設けられません。複数の拠点を持つなら法人化が前提になります。
  4. スタッフが増えて社会保険の加入が必要になった:個人事務所でも常時5人以上なら強制適用なので、法人化しても社会保険の負担は大きく変わらない段階に来ています。

反対に、売上がまだ1,000万円に届いていない段階では、法人化よりも先に顧問先を増やすことに力を使ったほうがよいでしょう。実態調査でも、売上1,000万円未満の事務所のほとんど(97%以上)は個人事務所です。売上の段階ごとに何を変えるべきかは、社労士の売上の壁でくわしく整理しています。

よくある質問

社労士1人でも法人化できますか?

できます。2016年1月1日から、社員が1人の社労士法人(一人法人)を設立できるようになりました。ただし、一人法人は、社員が亡くなったときに新たに社員として迎える候補である「後継候補者」とその優先順位をあらかじめ決めて、連合会に届け出る必要があります。

社労士法人の設立にはいくらかかりますか?

主なものは、定款認証の手数料5万円、連合会への登載手数料2万円、都道府県会の法人の入会金(東京5万円、大阪・愛知10万円など)です。毎年、個人の会費とは別に法人の会費(東京は社員1〜5人で年9万6,000円)もかかります。登記の費用は法務局で、司法書士に頼む場合はその報酬も確認してください。

社労士法人の名前は自由に決められますか?

名称の中に「社会保険労務士法人」という文字を必ず入れなければなりません(社労士法第25条の7)。それ以外の部分は自分で決められますが、定款に書く事項なので、設立の前に決めておく必要があります。

法人化すると税金は安くなりますか?

一概には言えません。法人には法人税がかかり、社員が受け取る役員報酬は原則として毎月同じ額でないと法人の損金になりません。社会保険料の負担も変わります。売上や経費、家族の状況によって結果が変わるので、法人化で税金がどう変わるかは、必ず税理士に相談して判断してください。

出典

法令・費用・会員数は2026年10月23日時点で各発表元のページを確認した内容です。実態調査の売上・顧問先の数は、個人事務所の代表(13,061人)と社労士法人の代表社員(1,408人)の回答です。入会金・会費は社労士会ごとに異なり、改定されることがあります。設立登記の費用は法務局で、税金の扱いは税理士に確認してください。